いつもと違う着信音”  『音での10のお題』より

 

 今や携帯電話の性能はとどまるところを知らぬ勢いで向上しており、液晶画面で楽しめる動画にしても、相手のお顔を見て会話が出来る“テレビ電話”機能がとっくに可能になっており、昨今では地上デジタル放送を楽しめるまでに進化しているし。子供用にとGPSで所在を割り出して親御さんへ知らせる“迷子検索”や、プリペイドカードやクレジットカードと同等の“お財布機能”までついて。定番のコントにこういうのがあるくらい。

 『いやホント、このケータイ、
  これでもかというくらいにいろいろな機能が充実しているその上に、
  なんと、電話も掛けられるんですよねぇ♪ ビックリですよねぇvv

 てなくらいで。今や、財布を忘れてもケータイは忘れちゃいけない世情になりつつあったりするらしい。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 着信音も、昔々のコントにあったよな、
 『え?『あれ?『俺か?『私のかしら?『あれ、違うぞ?『誰だよ早く出ろよ。』
 人々がめいめいにカバンやポケットをまさぐりの、自分のじゃないぞ、誰のだ?なんてな混乱が生じたような時代があったんだよねぇなんて話が、もはや遥かなる過去のものになるほどに。電子音で刻まれるメロディ“着メロ”があっと言う間に普及したその後を、これまた覆い尽くすよに席巻して。それはクリアな音質にての、今や“着うた”とやらが“お電話ですよ”とオーナーを呼んでくれるのだそうで。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 とはいうものの、マナーはいつの時代だって変わりません。あなたには神様みたいな人の歌声でも、他の人にはそうじゃないってことも大いにあるのだから。それでなくたって、特殊な電磁波が医療関係の精密な機器に与える誤作動という恐ろしい話だってあるのだから。電車の中や公共の場にいる時などなど、必要ないならケータイの電源は切っておくのがマナーです。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 でもね? あのね? 必要な時は必要なんだから、電源は入れておかないと。何のための“携帯”なんだか判らなくなる。今どこにいるの? 元気で遠くのお外にいるの? 誰かとお喋りしててお邪魔なのかな? お話があるの。伝えたいことがあるの。あなたの声が聞きたいの。ねえどこにいるの? 吐息の響きさえ愛しいあなた…。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 軽やかなメロディは、ちょっぴり恥ずかしかったけれど自分で選んで、それを設定してあげたの。だって進さん、本当にこういうのの操作とか苦手だそうで。必要最低限の操作以外をいじらせたら、それこそ世界最速で壊すから。何か新しい入力データがあるのなら、セナくんが手づからやってあげてと、桜庭さんから拝み倒されてしまったほど。だから、あのね? この曲が流れたらボクからの電話です。それと、こっちの曲ならメールです。ちゃんとそう言ってあったのだけれど。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 どうしたんだろ。出てくれないの。どうしたんだろ。朝からのずっと。電源は入っているのにね。電車の中と授業中と、病院などにいる時以外は、出来るならいつも電源は入れておいて下さいねと言っておいたから。ちゃんと呼び出し音は聞こえるのにね。出てくれないの、どうしてかな。ボクだって判らないのかな。それとも…判ってて出てくれないのかな。


   ♪・♪♪〜♪♪♪♪


 「なんだ。」
 【なんだ、じゃないよ。何で出ないの。】
 「何の話だ。」
 【だから、今朝からのずっと、
  セナくんがお前へ電話掛けてるのに、
  全然出てくれないからどうしたんだろうって心配してるんだよ。】
 「何でお前にそれが判る。」
 【セナくんがボクに様子を見て下さいっていう電話を掛けて来たからだ。】
 「俺へ掛けて来た方が早いのにか。」
 【………だからっ。】


 つか、ちゃんと繋がるじゃないかと。同じ教室内の少し離れたところに立って、自分の携帯電話を耳へと当てているチームメイトの雄々しい姿を、怪訝そうに眉を寄せて眺めやる桜庭で。

 「なあ、進。そのケータイ。」
 「なんだ。」
 「いや。もう切っていいからさ。」

 確認するために掛けてみたもので、何が嬉しくてこうまで近くにいる相手と電話越しに話さにゃならん。自分の携帯は衣替えしたばかりの夏用のズボンのポケットへとすべり込ませつつ、スポーツマンらしくも長い腕を伸ばすと相手の携帯電話を掴み取る。

 「どこか調子が悪いとか、何か気づいてるようなことはないのか?」

 自動販売機からノートブック・パソコンにGPSまで。繊細微妙な扱いを要求されるものであればあれほど、触る端から壊しまくる“クラッシャー清十郎”でも。さすが、愛しいセナくんとのコミニュケーション・ツールであるとの覚えが強いからか、この携帯電話だけは奇跡的なまでに長寿命を保ち続けているのだが。

 “滅多に触らないんなら壊さないよな、そりゃあ。”

 何か特別な連絡事項があるとき以外は、寝る前のメール交換だけという、至ってシンプルなモバイルライフを送っている彼だけに。心静めて自分のペースで打つメールと、それへの返信としてやって来るメールを受け取るためにだけ使っていて、なのに壊せてしまえるというのなら。それはもう…普通の固定電話で満足していた方が、彼のみならず、色々な人のためでもあるのではなかろうか。

 「小早川からの電話なぞ、掛かって来てはおらん。」
 「だから。そんな風に怖い顔して言われてもサ。」

 桜庭がセナからの報を受けたという事実へと、むっかりしている彼であるらしく。絵に描いたような“大人げない人”である進へ、

 「他には異状は無いの?
  僕からのはさっき出てたくらいだから、支障なく繋がってるんだよね。」

 そうと訊いたその時だ。


   ♪♪♪♪・♪♪〜♪


 「あれ? これって…。」
 「うむ。今朝から時々鳴っている。」

 覚えがないから相手にしなかったと大威張りのラインバッカーさんだが、

 「………あほうっ!」
 「なっ。」
 「何がどうなって
  “水色の恋”が“宇宙戦艦ヤマト”に差し替わったのかは知らないけれど、
  今朝からのずっと、休み時間になると掛かって来てたそれが、
  セナくんからの電話だったのっ。」

 「………っ☆」

 だ〜か〜ら、そんなして眸ぇ剥いてる暇があるんなら、とっとと出てやらないかと。やっぱり手の掛かるチームメイトの、大きくて分厚い肩を叩いてやって。ああ、だから慌てて出ない、壊したらどーすんのっ! やっぱり気苦労が絶えないアイドルさんであるらしいです。


  “こういう時こそ、ヨウイチの声が聞きたいよう〜〜〜。”





  〜どさくさ・どっとはらい〜 07.6.10.


  *微妙に前作の続きみたいかもですね。(笑)
   着信音の設定って(それも着メロ)そう簡単に、
   ちょっとした誤動作くらいで変わるもんじゃないとは思うのですが。
   そこが進清十郎たる由縁ということで。
(おいこら)

    「どこをどう触ったら、こんなことが起きるのか…。」

   こうなったらもう、セナくんの声で
   『進さん、進さん。出て下さい』なんて言ってもらえる設定に
   しといた方がいいのかも。
   (あ、いや・だから、設定が変わってたんだっけ。)

  *ちなみに、こんな話を書いてる私はやっぱりの相変わらず、
   ま〜だ携帯ユーザーではありませんで。
   だからして、このお題はどうしたもんかと、
   これでも結構考えあぐねた上でのこの始末でございます。
(う〜ん)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv **


戻る